【腰痛・下肢痛のための靴選びガイドーからだにあった正しい靴を履いていますか?ー 田中 尚喜 著】を読んでみました。
本書は、出版当時、東京厚生年金病院、現在はJCHO東京新宿メディカルセンター のリハビリテーション室 技師長の田中 尚喜先生の著作です。先生は、病院で多くの患者さんを診られる一方で、スポーツ選手のサポートも行っており、1994年には世界水泳選手権日本選手団のチームトレーナーも務められていました。そのような経験の中で、故障を抱える選手や患者さんに、筋力トレーニングやストレッチ、物理療法などを試みても、効果が長続きしないのは何故か、と疑問を持ち、ふと足元を見ると、『とても靴というにもおこがましい靴』があったのだそうです。それ以来、足部や靴の研究及び診察に励まれ、患者さんに「靴屋さんみたい」とまで言われるようになったというスペシャリストです。この本では、理学療法士として患者さんと向き合ってこられた、田中先生の医学的知識が、私たち一般人にも分かりやすくまとめられています。
全てのコンテンツは、Q&A方式になっており、外反母趾で悩む私たちとは一見、関係なさそうに思える項目もありそうですが、読んでいくと、そうとも言えない箇所がたくさん有りますので、順を追って読み進めることをお勧めします。ところどころに、興味深いコラムが挟んであるので、すいすいと読めるようになっています。
まずは、私たちにとってはお馴染みの、『ハイヒールは本当によくない履物か』という項目ですが、田中先生から見ると、一概にそうとは言い切れないんだそうです。『女性では、足首が内側に曲がる外反の状態が強く、その状況を簡単に解消する方法としては、踵の位置を足先より高い位置に持ってくるという方法があります。つまり爪先立ちと同じ状態になれば、足の裏側の構造(足底腱膜)が緊張して、踵の骨を前方に引き寄せ、結果的に外反の状態を解消することにつながるのです。ですからこの状態にヒールをつけた状態は、一見不安定のようにも思えますが、足関節にとっては意外に安定しているのです。』何とも合点のいく説明じゃありませんか?たまにいますよね、ヒールの方が楽なの、と言う女性。やせ我慢ではなく、こういう理由だったのですね。でも、ご注意!『ただし、踵が高い状態は同時に足先自体が前にすべりやすい状態にもなり、足が前方に移動しない工夫がなければ、やはり外反母趾の原因になりやすいでしょう。』その、工夫についても、図入りで詳しく解説されていますよ。
そして『外反母趾は、女性特有の疾患か』という項目ですが、『外反母趾は幾分、関節の構造やそれを支える筋肉の弱い女性に多い病気といえますが、男性にも子どもにも起こっても不思議はありません。』という先生の見解には、さほど驚きませんでした。しかし!『外反母趾変形に伴う足底筋肉の走行変化』という図の説明書きにあった『タオルをつまむ動作などを勧められる場合もありますが、変形を助長するだけです。』このフレーズは、衝撃的ではありませんか!?タオルを使った足指の運動を勧める外反母趾の専門家って、多いですよね。効果がないどころか、逆効果だとは…これは、専門家による「タオル運動論争」を、行って欲しいです。外反母趾で悩む私たちは、本当に有効な方法を知りたいですものね。
また、軽い靴、柔らかい靴について語られている項目では、『ただ単に軽いだけの靴の場合、足に相当負担を強いる結果となるため、もし、軽い靴で歩くのであれば長い距離を歩かないこと、反対に相当に足を鍛えていることなどが必要となります。』確かに、日本代表レベルのランナーの靴は、嘘のように軽量だけれど、それを市民ランナーレベルの人が履いてマラソンを走ると、間違いなく故障する、とは聞いたことがあります。『カンフーシューズや体操の靴、バレエシューズなどは、本当に軽量ですが、どちらかといえば足を包んでいるだけの履物です。鍛錬なしには履けない履物なのです。』…深く納得です。
それから、あなたは、外国でウォーキングシューズと言っても通じないって、ご存知でしたか?私は知りませんでしたが、『ウォーキングシューズは、日本のあるスポーツメーカーが、一般の靴市場に参入するにあたり作った造語なのです。このメーカーとしては、日本人が歩かなくなっているので、「せいぜい500m程度歩く靴」を作ったのです。』!!またしても、衝撃的な言葉ですよね。今日は沢山歩くから、ウォーキングシューズで出かけよう、と思う人は、世間に大勢いるはずなのに…『しかし、ウォーキングシューズと呼ばれている靴のすべてがいけないとは限りません。この本で得た知識と自分の足の感覚で、よりよい靴を選びたいものです。』
そうなんですよね。正しい知識と、自分の足の感覚、つまり沢山の試し履きで、自分にとっての最高の一足を見つけなければいけないんですよね。本書には、巻末に資料編として、詳細なサイズ測定法や、開張足、扁平足の場合の測定法、中敷の作成(写真の解説付き)などが載っていますので、これを助っ人に、ベストな靴と巡り遭って下さい!